ラブラドール・レトリバーは、賢くて明るく、家庭犬として人気の高い犬種です。
盲導犬や介助犬としても活躍するその姿に憧れて、「いつかうちにも…」と夢見る方も多いでしょう。
ですが、ラブラドールは30kg近くになる大型犬です。
愛嬌たっぷりの子犬期はほんの一瞬。数ヶ月後には、家具をなぎ倒す力を持つ大人の犬に育ちます。
このページでは、ラブラドールを迎える前に知っておくべき基本事項を、ブリーダーの視点でお伝えします。
1. 大型犬と暮らすという現実
ラブラドールは本来、カナダの流氷が浮かぶような冷たい海で働いていた水猟犬です。
泳ぎに適した骨格、厚い皮膚と被毛、脂肪層を持ち、漁師の仕事を手伝うために改良されてきました。
そのルーツを知ると、体の大きさや体力が“設計された特性”であることがよくわかります。
人懐っこく、賢く、従順という性格も、長年「人とともに働いてきた」歴史の中で培われたものです。
2. 子犬の一瞬より、成犬としての10年を考える
子犬の期間はせいぜい数ヶ月。しかし、犬の一生は10年以上続きます。
可愛いだけで選ぶと、成犬になったときのギャップに驚くことになります。
迎える前に、次のようなことを現実的にシミュレーションしてみてください。
- 体高60cm、体重30kg前後の犬が家の中を歩くイメージがあるか
- 引っ張り癖や飛びつきで人が倒れるリスク
- 毎日の運動(1日2回、各30分以上)の時間が確保できるか
- 家具や床の保護、車のスペースなどの環境対応
- 食費・医療費・消耗品などの費用感(中型犬の1.5〜2倍)
「大きくなるとこんなに大変だと思わなかった」という声は、残念ながら後を絶ちません。
3. 健康管理は「予防」が基本
ラブラドールに多いのが、股関節形成不全などの関節疾患です。
先天的要素に加えて、生活環境や育て方が発症や重症化に大きく関わります。
とくに注意したいのが以下の点です。
- 滑りやすいフローリング → マットやカーペットで対策
- 激しい運動 → 成長期は運動量をコントロール
- 過体重 → 成長期から適切な体型を維持
健康なラブラドールを育てるには、小さな積み重ねと飼い主の知識が不可欠です。
4. ラブラドールの「作業本能」と向き合う
ラブラドールは、元々「人のために働くこと」を喜びとする犬種です。
そのため、ただ自由に遊ばせたり、散歩をするだけでは満たされません。
以下のような関わり方が、ラブラドールにとって最も大切です。
- 一緒に何かを“する”時間(トレーニング、遊び、指示)
- 人の指示に従って成功体験を得られる場面
- 頭を使って達成感を得られる活動
この「作業欲求」が満たされないと、要求吠え・いたずら・破壊行動などの問題行動が出やすくなります。
5. クレートは「安心できる自分の部屋」
犬には落ち着けるスペースが必要です。
そのためにおすすめなのが、クレートトレーニング。
「閉じ込めるのはかわいそう」と感じる方もいますが、犬にとっては
安全で安心できる“自分だけの場所”です。
クレートに慣れておくことで、
- 留守番中にいたずらせず落ち着いて待てる
- 通院・災害時などの移動や隔離にも対応できる
- 興奮したとき、自分から落ち着ける場所として使える
大型犬との生活では、事故を未然に防ぐ設計がとても大切です。
6. 暑さに弱い、という特性も
ラブラドールは寒冷地の海で活動していた犬種です。
そのため、日本の夏の蒸し暑さには非常に弱く、熱中症のリスクが高くなります。
- 散歩は早朝や夜など、涼しい時間帯に
- 室内ではエアコンを積極的に使用する
- 外飼いやエアコンなしは命に関わる
「外でも飼える」という認識は、今の時代には当てはまりません。
実際クーラーを使用した室内であっても、クレートに直射日光が当たり、
熱中症で命を落とした事例もあります。
クーラーだけで安心せず、細心の注意をしてあげましょう。
7. よくできた犬だからこそ、安易に選ばない
ラブラドールは、性格も能力も非常に優れた犬種です。
ですがその背景には、ブリーダーの代々にわたる選択と努力があります。
だからこそ、安易に「飼いやすいから」と選ぶのではなく、
“向き合う覚悟があるか”を自問することがとても大切です。
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