「ドッグショーって、犬のミスコンでしょ?」
そんなふうに思っている方も、まだまだ多いかもしれません。
けれど、本当に犬と向き合っているブリーダーにとって、ドッグショーは“見た目”を競う場ではありません。
そこでは、犬種の健全性や気質といった本質が評価され、次の世代へ命をつなぐための大切な情報が集まります。
この記事では、ラブラドール・レトリーバーを専門に繁殖している立場から、ドッグショーの本当の意味と、
これから犬を迎えようとしている方にこそ知っておいてほしい理由をお伝えします。
ドッグショーは「美しさ」だけを競う場じゃない
ドッグショーというと、つい「見た目の良さを競うコンテスト」という印象が先に立ちます。
たしかに、美しい毛並みや堂々とした姿は目を引きますが、本質はそこではありません。
評価の基準となるのは、「スタンダード(犬種標準)」にどれだけ忠実かどうか。
これは、それぞれの犬種が本来どのような目的でつくられたのか、どんな身体的特徴や性格が求められているのかを示すものです。
たとえばラブラドールであれば、骨量や筋肉のつき方、歩様(歩き方)、尾のつき方だけでなく、
落ち着きのある気質や、人との協調性まで細かく見られます。
つまり、ドッグショーは「その犬がその犬種らしくあるかどうか」を確認するための場所なのです。
水猟犬としてのルーツと必要な資質
ラブラドール・レトリーバーは、カナダのニューファンドランド島で水猟犬として働くために作出されました。
冷たい海に飛び込み、撃ち落とされた水鳥を静かに回収する。そのためには、泳ぎに適した体つき、分厚い被毛、そして人の指示を落ち着いて待てる気質が欠かせません。
現代では家庭犬として暮らすラブラドールがほとんどですが、その「本来の役割」に基づいた体の構造や精神性を受け継いでいるかどうかは、やはり大切にすべきポイントです。
なぜブリーダーはドッグショーに出すのか
私たちが犬をショーに出陳する理由は、「賞が欲しいから」ではありません。
もちろん評価されるのは嬉しいことですが、それ以上に重要なのは、その犬が次の世代を残すにふさわしいかどうかを第三者の目で確認してもらうことです。
繁殖においては、自己満足だけではいけません。
犬種を正しく守っていくためには、客観的な視点が必要です。
ドッグショーは、そのための大切な機会です。
繁殖の判断材料になる「構成」と「気質」
体の構成(骨格や歩様など)は、遺伝的に子犬へ受け継がれる要素です。
骨盤の傾き、膝の可動域、尾のつけ根の角度など、細かいポイントが将来の健康にも影響を与える可能性があります。
また、ドッグショーでは「どんな場所でも冷静にふるまえるか」という精神的な安定も見られます。
会場は音も匂いも刺激だらけ。その中でも落ち着いていられるかどうかは、犬自身の持つ気質だけでなく、
日々どれだけ人と信頼関係を築いてきたかも問われるのです。
「心の健やかさ」も試されている
リングに立つ犬たちは、ただ見た目が整っているだけではありません。
トリミング台に立つ練習、知らない人に体を触られる練習、大勢の犬や人がいる中でも落ち着いて歩く練習――
そうした社会化の積み重ねがなければ、犬はストレスで本来の力を発揮できません。
つまり、ショーに出ている犬は「人としっかり向き合って暮らしている」ことが前提です。
私自身、リングでの様子を見れば、「この犬はどんなふうに育てられてきたのか」が伝わってくると感じています。
ドッグショーは“知るため”の場所でもある
もしあなたが、これから犬を迎えようと考えているなら、
ぜひ一度、ドッグショーを見に行ってみてください。
たとえば、年に一度の「サクラアニュアルショー(JKC本部展)」では、全国のブリーダーやハンドラーが集まり、
犬種ごとの特徴を間近で見ることができます。
ラブラドールだけで数十頭見られる時間帯もあり、歩様や性格の違いまで、実際の犬を通して知ることができます。
ブリーダーたちが犬を通して交わしている会話にも、たくさんのヒントが隠れています。
理想のパートナー像や、「この人から迎えたい」と思える犬舎に出会えるかもしれません。
まとめ:ショーは“競う”より“伝える”ためにある
ドッグショーは、見た目だけを競うイベントではありません。
犬種の本質を守り、より良い未来へつないでいくために、犬と人が共に築き上げてきた文化でもあります。
「かわいいから」「なんとなく飼いたいから」と迎える前に、
犬という存在と真剣に向き合っている人たちの姿を、ぜひ一度、目にしてみてください。
あなたの理想のパートナーが、リングの中で出会いを待っているかもしれません。
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