股関節形成不全(Canine Hip Dysplasia/CHD)は、大型犬に多く見られる関節疾患のひとつです。
とくにラブラドール・レトリーバーは発症リスクが高いとされていますが、「ラブラドールだからなる」というわけではありません。
遺伝的素因があるからこそ、ブリーダーと飼い主が正しい知識と予防意識を持つことで、症状の出現を大きく防ぐことができます。
本記事では、股関節形成不全の原因や症状、予防のポイントをわかりやすく解説します。
股関節形成不全の主な原因は「遺伝」
股関節形成不全は、股関節が正常に発達せず、関節の緩みや変形が生じることで痛みや炎症を引き起こす病気です。
最大の要因は「遺伝」です。
両親どちらかにCHDの傾向がある場合、その子犬も同じような素因を持つ可能性があります。
だからこそ、遺伝的に健全な親犬を選び、繁殖計画を立てることが非常に重要なのです。
見落とされがちな「後天的な環境要因」
股関節形成不全は遺伝的な疾患である一方で、
成長期の環境によって発症や悪化することもあります。
特に大型犬の場合、身体の成長に比べて骨や関節の成長はゆっくりとしており、
生後2年ぐらいかかります。
従って以下のような後天的な要因が、股関節に負担をかける原因となります
- フローリングなど滑りやすい床での生活
- ボール遊びやフリスビーなどでの激しい運動や長時間の散歩
- ドッグランなどでの激しい運動
- 階段や段差の昇降、ソファーへのジャンプ
- 肥満や急激な体重増加
- 高カロリー・高カルシウムの食事(成長を早めすぎる)
こうした生活環境の中で、股関節が適切に発育できないと、
たとえ遺伝的にリスクが低くても発症してしまうケースもあるのです。
股関節形成不全の主な症状
成長とともに現れることが多く、以下のような変化に気づいたら要注意です。
- 立ち上がりに時間がかかる
- 走るときに後肢を一緒に跳ね上げる(うさぎ跳び)
- 段差や階段を嫌がる
- 後ろ足の筋肉が落ちている
- 運動を避ける、歩き方がぎこちない
診断にはレントゲン検査が不可欠です。
愛犬の動きに違和感があれば、早めに動物病院へ受診することをおすすめします。
健康な犬の場合は、評価は生後12ヶ月以降に行うのが一般的とされています。
血統書の見方|CHD評価はどう記載されている?

JKCの血統書には、飼い主の希望で、JAHDの結果を記載することができます。
たとえば、次のように書かれています:
JH05/05B013
この記載の意味は以下の通りです:
- JH:JAHD(日本動物遺伝病ネットワーク)による股関節評価
- 05/05:右/左それぞれのスコア(0に近いほど良好)
- B:FCIによる等級(A〜E)
- 013:検査時の月齢(13ヶ月)
片側0〜45点のスコアで、5点以下であれば優良とされます。
JAHDの評価報告書を見れば安心材料に

血統書にスコアが記載されていても、それだけではどんな評価だったのか分かりません。
JAHDの股関節評価報告書では、より詳細な情報が示されます:
- 関節の構造やゆるみ
- 関節裂隙の対称性
- 関節炎の有無
とくに重要なのは、異常が見られなかった場合に付くこの一文です:
「股関節形成不全症の所見は認められません」
このコメントがあれば、レントゲン上の異常は見られなかったという証明になります。
OFAとの違いは?
アメリカではOFA(Orthopedic Foundation for Animals)がCHD評価の主流です。
検査は生後24か月以降を対象としております。
評価はレントゲン写真をアメリカに送る必要もあり、やや手続きが煩雑となります。
また、JAHDとは異なり、スコアポイントではなく、7段階のグレード制となります。
JAHDは、FCI(国際畜犬連盟)準拠の評価を行っており、国内では最もメジャーな機関です。
OFAと比べても、日本国内で評価するならJAHDで十分といえるでしょう。
良いブリーダーを選ぶためのチェックポイント
- 両親犬のCHDスコアと報告書を公開している
- 環境要因についての知識と配慮がある
- 股関節形成不全の説明を誠実にしてくれる
- 子犬の生活環境(床・運動・食事)に気を配っている
ブリーダー選びは、「どんな子犬を迎えるか」だけでなく、
「その子の一生にどんな健康リスクがあるか」にも直結します。
まとめ|遺伝だけじゃない、環境こそも予防のカギ
股関節形成不全は遺伝性疾患でありながら、環境の整備と理解ある飼い主の行動によって、予防や進行の抑制が可能です。
「スコアがあるから安心」ではなく、
評価の中身と生活環境まで含めて健康を守る視点が大切です。
健やかな未来のために。
まずは知ることから、始めてみませんか?
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